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横動画から、もう少し深く。 / 作家特集

【支配されたい…】
という欲望
いだ天ふにすけが描く
魅力的すぎる沼男

執着点片道切符の修正済み表紙あなただけの雌になるの修正済み表紙優しそう。
だけど、怖い。

書影:いだ天ふにすけ『執着点片道切符』『あなただけの雌になる』/ワニマガジン社(画像の一部を修正)

いだ天ふにすけの漫画の男、メロすぎる。高身長で、線が細くて、おしゃれで、女の子への気配りもできる。なのに、二人きりになるとSっ気が強い。本物の沼らせ男で、クズ男なのだ。優しそうな垂れ目をしているくせに、目の奥が笑っていない。この男に沼るのは、分かる。分かってしまうのである。

作品からの引用
引用:いだ天ふにすけ『優しくしたら好きになってくれる?笑』表題作より/エイシス(がるまにPEACH)。優しそうな笑顔に、支配的な言葉が重なる場面。
引用:いだ天ふにすけ『優しくしたら好きになってくれる?笑』表題作より/エイシス(がるまにPEACH)。優しそうな笑顔に、支配的な言葉が重なる場面。

いだ天ふにすけ先生は、成人向け漫画を描く作家だ。この作家の何がそんなに特別なのか。僕が一番伝えたいのは、男性を中心に物語が展開していく、という事である。まず魅力的な男がいて、その沼男に沼ってしまう女性たちを描く。この構造と、男のキャラクターデザインが、他の成人向け漫画とは大きく違う。絶対に紹介したいと、ずっと思い続けてきた作家なのだ。

WATCH / 元の横動画

【支配されたい…】という欲望

いだ天ふにすけの男性キャラクターが、なぜこんなにも魅力的なのか。顔面土砂崩れが語った横動画です。

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01 / いだ天ふにすけを読む

まずは、いだ天ふにすけの3冊。

▶ 動画のこの話へ 00:56

今回取り上げる単行本は、『あなただけの雌になる』『優しくしたら好きになってくれる?笑』『執着点片道切符』の3冊だ。『あなただけの雌になる』はワニマガジン社から出た初単行本で、同社からは『執着点片道切符』も刊行されている。

書影:いだ天ふにすけ『あなただけの雌になる』/ワニマガジン社(画像の一部を修正)。
書影:いだ天ふにすけ『あなただけの雌になる』/ワニマガジン社(画像の一部を修正)。

一方、『優しくしたら好きになってくれる?笑』は、エイシスの女性向けレーベル「がるまにPEACH」の本である。こちらは2つの長い作品を一冊にまとめたもので、僕が最初の一冊として特に薦めたいのも、この本だ。

書影:いだ天ふにすけ『優しくしたら好きになってくれる?笑』/エイシス(がるまにPEACH)。
書影:いだ天ふにすけ『優しくしたら好きになってくれる?笑』/エイシス(がるまにPEACH)。

3冊とも、僕はおすすめしたい。だが、その理由を「女の子が可愛いから」で終わらせたくないのである。いだ天ふにすけの漫画は、男がメロい。そこをちゃんと説明したい。

02 / いだ天ふにすけを読む

成人向け漫画なのに、男を中心に物語が動く。

▶ 動画のこの話へ 01:11

男性向けの成人漫画は、基本的に、女性をいかに魅力的に見せるかに重点が置かれる。読者は女の子を見に来ているからだ。この女の子はどんな子なのか。どんな関係になるのか。そこが一番大事なのである。

だから、男性はあまり主張が激しくなかったり、読者が自分を投影しやすいオタク気質の人物だったりする。女の子に比べると、印象が薄い。僕が成人向け漫画を読んできて感じる、基本のつくりはこれだ。

ところが、いだ天ふにすけ先生の作品は逆なのである。魅力的な男性が、まず描かれる。そして、そんな沼男に沼ってしまう女性たちが描かれる。一部例外はあるが、基本的にはこの構造の作品が多い。男が、物語の中心にいるのだ。

例えば「ずっと前からあなたの事を」のこの場面。女の子が誘っているのに、男は「お前なんかと?」と思っている。この顔、この反応。読者が自分を重ねるための無個性な男では、全くない。この男自身が何を考え、どう振る舞うのかを読ませる。ここが、いだ天ふにすけの唯一無二の魅力なのである。

作品からの引用
引用:いだ天ふにすけ『あなただけの雌になる』収録「ずっと前からあなたの事を」より/ワニマガジン社。男女の表情の違いが印象に残る場面。
引用:いだ天ふにすけ『あなただけの雌になる』収録「ずっと前からあなたの事を」より/ワニマガジン社。男女の表情の違いが印象に残る場面。
03 / いだ天ふにすけを読む

オタクが知っている「強い男」は、運動部とヤンキーなのだ。

▶ 動画のこの話へ 02:04

成人向け漫画で「モテる男」として出てくるのは、筋肉質で、ラガーマンっぽい、スポーツマンタイプの男が多い。サッカー部です、野球部です、という見た目だ。別の漫画で見た目の例を挙げるなら、『クマとウサギは友達ではいられない』の熊坂くん。こういう男が、ヒエラルキーのトップに君臨している。

書影:犬好晶『クマとウサギは友達ではいられない』1巻/スクウェア・エニックス。筋肉質な体格の男性が熊坂くん。ここでは男性の見た目の比較として取り上げている。
書影:犬好晶『クマとウサギは友達ではいられない』1巻/スクウェア・エニックス。筋肉質な体格の男性が熊坂くん。ここでは男性の見た目の比較として取り上げている。

『クマとウサギは友達ではいられない』の紹介・試し読み・購入先 ↗

なぜ、こういう男なのか。ここからは僕の持論なのだが、成人向け漫画を読む人には、学生時代に陰キャだったり、スポーツマンタイプではなかった人が多いと思っている。そういう人間が認識している「オスとして強い個体」は、クラスで発言力のあったヤンキーや運動部の人間なのだ。

自分を見下してきた人。いじめてきた人。自分がコンプレックスを抱いている、自分とは対極の存在。恋愛でモテるかどうか以前に、男社会で誰が強かったか、という認識がある。だから、その姿を「モテる男」「チャラい男」として登場させると、僕たちオタクには分かりやすいのである。

恋愛の相手として魅力的か、というところまで行く前に、「こいつは自分より強い男だ」というところで止まっている。力が強く、強引に女性に迫る男。その方が、僕たちの知っているヒエラルキーとつながるのだ。

そんな成人向け漫画の世界で、いだ天ふにすけ先生が描く男は、全然違うのである。

04 / いだ天ふにすけを読む

本物の沼らせ男で、クズ男を描いている。

▶ 動画のこの話へ 03:16

高身長で線が細く、色白で、ファッションセンスがある。女の子に対して、外ではちゃんと気配りができるおしゃれ男子。だけど、二人きりになるとSっ気が強い。いだ天ふにすけ先生は、本物の沼らせ男を描いている。クズ男を描いているのだ。

「このディテール、説得力しかない。」

少しだらけたような顔。垂れ目で、優しそうな沼顔。なのに、目の奥が笑っていない。ただ顔が整っている、というだけではない。女の子を沼らせる男の、嫌なところまで含めたキャラクターデザインが素晴らしいのである。

『優しくしたら好きになってくれる?笑』のナツを見てほしい。店では「座って座って」「下に荷物置くとこあるよ」と気を配る。こういう事がさらっとできる。その同じ男が、別の場面では、あの目で笑うのだ。気配りのできる男だからこそ、裏の顔が効いてしまう。

作品からの引用
引用:いだ天ふにすけ『優しくしたら好きになってくれる?笑』表題作 p.10より/エイシス(がるまにPEACH)。席や荷物の置き場所を案内するナツ。
引用:いだ天ふにすけ『優しくしたら好きになってくれる?笑』表題作 p.10より/エイシス(がるまにPEACH)。席や荷物の置き場所を案内するナツ。

こういう男は、僕たちのようなオタクが認識している世界の外にいる。恋愛の市場に出ていなければ、そもそも出会わない種類の人間なのである。

だって、学校にもカードショップにも、こんな男はいなかったのだ。

僕たちが知っている「強い男」の延長では出てこないのに、女の子が沼る理由には説得力しかない。この男の描き方こそ、見てほしいところなのである。

05 / いだ天ふにすけを読む

「これだったら、抱かれてもしゃーないか」と思わせる。

▶ 動画のこの話へ 03:57

もう一つ、成人向け漫画を読んでいて僕が感じるのは、女性がリードする展開の多さだ。なぜか。自然な流れで女性と関係を持つ、という事が、僕たちには分からないからである。目と目が合って、その流れで……と言われても、その流れが分からない。

だから、女性の側から「私はあなたが好きですよ」「同意の上ですよ」と明確にしてくれないと、読者が入り込めない。女性が積極的に来てくれる展開になるか、さっきのスポーツマンタイプの男が、オラオラと強引に迫る展開になるか。僕には、この二つに分かれがちに見えるのだ。

しかし、いだ天ふにすけ先生は、男性をしっかり魅力的に描く事で、女性が惹かれる理由をちゃんと作ってくれる。顔がいいだけじゃない。服装、表情、気配り。これまで書いてきた細部を見せられると、「これだったら、抱かれてもしゃーないか」と納得させられてしまう。

「だって、かっこいいもん。」

この納得があるのだ。ただ強い男だから女性がなびく、というだけではない。女の子がこの男に沼ってしまう、その理由を、読んでいる僕まで分からせられてしまうのである。

しかも、その高身長で韓国系のイケメンを思わせる男に対して、女性は低身長の文化系女子のように描かれる。オタク女子が自分をデフォルメして描いた自画像みたいな、あの感じだ。この絶妙なバランスの男女が、物語を繰り広げる。

作品からの引用
引用:いだ天ふにすけ『あなただけの雌になる』収録「ずっと前からあなたの事を」より/ワニマガジン社。男女で異なる表情と描き方が見える会話の場面。
引用:いだ天ふにすけ『あなただけの雌になる』収録「ずっと前からあなたの事を」より/ワニマガジン社。男女で異なる表情と描き方が見える会話の場面。

女の子だけが可愛いのでも、男だけがかっこいいのでもない。この男に、この女の子が沼る。そこまで含めて、他にはない作品性になっている。僕はここが、めちゃくちゃ好きなのだ。

06 / いだ天ふにすけを読む

アクリルスタンドにも、男がいる。

▶ 動画のこの話へ 05:01

好きすぎて、僕は漫画以外のグッズも持っている。いだ天ふにすけ先生のTシャツも持っていて、このバックプリントがめちゃくちゃ可愛い。

いだ天ふにすけのTシャツのバックプリント。イラスト:いだ天ふにすけ/ワニマガジン社。
いだ天ふにすけのTシャツのバックプリント。イラスト:いだ天ふにすけ/ワニマガジン社。

そして、アクリルスタンドも持っている。見てほしい。男女ですからね、これ。女の子だけではなく、男の子も描かれているのである。

いだ天ふにすけ初個展「わたしだけのものになる。」のアクリルスタンドA/B。男女が一組で描かれている。イラスト:いだ天ふにすけ/ワニマガジン社。
いだ天ふにすけ初個展「わたしだけのものになる。」のアクリルスタンドA/B。男女が一組で描かれている。イラスト:いだ天ふにすけ/ワニマガジン社。

僕は他の成人向け漫画家のグッズも持っている。えいとまん先生の『おかげで彼女ができました!』のアクリルスタンドは、女の子だけのものだ。それに対して、いだ天ふにすけ先生のアクリルスタンドには、男がいる。

僕が持っている、えいとまん先生のアクリルスタンド。こちらは女性キャラクター単独のデザイン。イラスト:えいとまん。
僕が持っている、えいとまん先生のアクリルスタンド。こちらは女性キャラクター単独のデザイン。イラスト:えいとまん。

『えいとまん先生のおかげで彼女ができました!』の紹介・試し読み・購入先 ↗

ここ! この特異性を知ってほしい。成人向け漫画のグッズで、男の子も描かれている。作品の中で男がちゃんと魅力的に描かれているから、その男も欲しくなるのである。漫画の構造の違いが、グッズにまで出ているのだ。

07 / いだ天ふにすけを読む

最初の一冊には『優しくしたら好きになってくれる?笑』を。

▶ 動画のこの話へ 05:19

僕個人としては3冊ともおすすめなのだが、最初に読むなら、特に『優しくしたら好きになってくれる?笑』を薦めたい。女性向けの作品をまとめた一冊で、二つの話をじっくり読める本だ。

表題作では、幼稚園の頃に別れた幼馴染のナツと、大人になってから再会する。昔は意地悪で嫌いだった相手が、背も高くなり、気配りのできる男性になっている。大人になった彼に惹かれていくのだが、その彼には裏の顔がある。

昔の印象と、再会してから見える姿。その違いに心が動いたところへ、また別の顔が現れる。先ほど書いた、優しそうな男から目が離せなくなる感覚を、長い話の中で味わえるのがいい。

もう一つ収録されているのが、『催眠!! 元カノ無知無知大作戦』。タイトルから分かる、この頭の悪さ。アホエロコメディなのだ。表題作とは違う方向に振り切れた話まで、一冊で読めてしまう。

単行本は全256ページ。表題作134ページと、もう一作111ページが収録されている。男の魅力と、その男に惹かれる人の気持ちを、短いあらすじだけで終わらせずに読めるボリュームがある。

女の子を見せるために男がいるのではなく、まず魅力的な男がいて、その男に沼る女の子を描く。この作家の特異性は、そこにある。僕が「いだ天ふにすけの男、メロすぎる」と言い続けている理由を、ぜひ漫画で確かめてほしい。

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