まずは、いだ天ふにすけの3冊。
▶ 動画のこの話へ 00:56今回取り上げる単行本は、『あなただけの雌になる』『優しくしたら好きになってくれる?笑』『執着点片道切符』の3冊だ。『あなただけの雌になる』はワニマガジン社から出た初単行本で、同社からは『執着点片道切符』も刊行されている。

一方、『優しくしたら好きになってくれる?笑』は、エイシスの女性向けレーベル「がるまにPEACH」の本である。こちらは2つの長い作品を一冊にまとめたもので、僕が最初の一冊として特に薦めたいのも、この本だ。

3冊とも、僕はおすすめしたい。だが、その理由を「女の子が可愛いから」で終わらせたくないのである。いだ天ふにすけの漫画は、男がメロい。そこをちゃんと説明したい。
成人向け漫画なのに、男を中心に物語が動く。
▶ 動画のこの話へ 01:11男性向けの成人漫画は、基本的に、女性をいかに魅力的に見せるかに重点が置かれる。読者は女の子を見に来ているからだ。この女の子はどんな子なのか。どんな関係になるのか。そこが一番大事なのである。
だから、男性はあまり主張が激しくなかったり、読者が自分を投影しやすいオタク気質の人物だったりする。女の子に比べると、印象が薄い。僕が成人向け漫画を読んできて感じる、基本のつくりはこれだ。
ところが、いだ天ふにすけ先生の作品は逆なのである。魅力的な男性が、まず描かれる。そして、そんな沼男に沼ってしまう女性たちが描かれる。一部例外はあるが、基本的にはこの構造の作品が多い。男が、物語の中心にいるのだ。
例えば「ずっと前からあなたの事を」のこの場面。女の子が誘っているのに、男は「お前なんかと?」と思っている。この顔、この反応。読者が自分を重ねるための無個性な男では、全くない。この男自身が何を考え、どう振る舞うのかを読ませる。ここが、いだ天ふにすけの唯一無二の魅力なのである。

オタクが知っている「強い男」は、運動部とヤンキーなのだ。
▶ 動画のこの話へ 02:04成人向け漫画で「モテる男」として出てくるのは、筋肉質で、ラガーマンっぽい、スポーツマンタイプの男が多い。サッカー部です、野球部です、という見た目だ。別の漫画で見た目の例を挙げるなら、『クマとウサギは友達ではいられない』の熊坂くん。こういう男が、ヒエラルキーのトップに君臨している。

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なぜ、こういう男なのか。ここからは僕の持論なのだが、成人向け漫画を読む人には、学生時代に陰キャだったり、スポーツマンタイプではなかった人が多いと思っている。そういう人間が認識している「オスとして強い個体」は、クラスで発言力のあったヤンキーや運動部の人間なのだ。
自分を見下してきた人。いじめてきた人。自分がコンプレックスを抱いている、自分とは対極の存在。恋愛でモテるかどうか以前に、男社会で誰が強かったか、という認識がある。だから、その姿を「モテる男」「チャラい男」として登場させると、僕たちオタクには分かりやすいのである。
恋愛の相手として魅力的か、というところまで行く前に、「こいつは自分より強い男だ」というところで止まっている。力が強く、強引に女性に迫る男。その方が、僕たちの知っているヒエラルキーとつながるのだ。
そんな成人向け漫画の世界で、いだ天ふにすけ先生が描く男は、全然違うのである。
本物の沼らせ男で、クズ男を描いている。
▶ 動画のこの話へ 03:16高身長で線が細く、色白で、ファッションセンスがある。女の子に対して、外ではちゃんと気配りができるおしゃれ男子。だけど、二人きりになるとSっ気が強い。いだ天ふにすけ先生は、本物の沼らせ男を描いている。クズ男を描いているのだ。
「このディテール、説得力しかない。」
少しだらけたような顔。垂れ目で、優しそうな沼顔。なのに、目の奥が笑っていない。ただ顔が整っている、というだけではない。女の子を沼らせる男の、嫌なところまで含めたキャラクターデザインが素晴らしいのである。
『優しくしたら好きになってくれる?笑』のナツを見てほしい。店では「座って座って」「下に荷物置くとこあるよ」と気を配る。こういう事がさらっとできる。その同じ男が、別の場面では、あの目で笑うのだ。気配りのできる男だからこそ、裏の顔が効いてしまう。

こういう男は、僕たちのようなオタクが認識している世界の外にいる。恋愛の市場に出ていなければ、そもそも出会わない種類の人間なのである。
だって、学校にもカードショップにも、こんな男はいなかったのだ。
僕たちが知っている「強い男」の延長では出てこないのに、女の子が沼る理由には説得力しかない。この男の描き方こそ、見てほしいところなのである。
「これだったら、抱かれてもしゃーないか」と思わせる。
▶ 動画のこの話へ 03:57もう一つ、成人向け漫画を読んでいて僕が感じるのは、女性がリードする展開の多さだ。なぜか。自然な流れで女性と関係を持つ、という事が、僕たちには分からないからである。目と目が合って、その流れで……と言われても、その流れが分からない。
だから、女性の側から「私はあなたが好きですよ」「同意の上ですよ」と明確にしてくれないと、読者が入り込めない。女性が積極的に来てくれる展開になるか、さっきのスポーツマンタイプの男が、オラオラと強引に迫る展開になるか。僕には、この二つに分かれがちに見えるのだ。
しかし、いだ天ふにすけ先生は、男性をしっかり魅力的に描く事で、女性が惹かれる理由をちゃんと作ってくれる。顔がいいだけじゃない。服装、表情、気配り。これまで書いてきた細部を見せられると、「これだったら、抱かれてもしゃーないか」と納得させられてしまう。
「だって、かっこいいもん。」
この納得があるのだ。ただ強い男だから女性がなびく、というだけではない。女の子がこの男に沼ってしまう、その理由を、読んでいる僕まで分からせられてしまうのである。
しかも、その高身長で韓国系のイケメンを思わせる男に対して、女性は低身長の文化系女子のように描かれる。オタク女子が自分をデフォルメして描いた自画像みたいな、あの感じだ。この絶妙なバランスの男女が、物語を繰り広げる。

女の子だけが可愛いのでも、男だけがかっこいいのでもない。この男に、この女の子が沼る。そこまで含めて、他にはない作品性になっている。僕はここが、めちゃくちゃ好きなのだ。
アクリルスタンドにも、男がいる。
▶ 動画のこの話へ 05:01好きすぎて、僕は漫画以外のグッズも持っている。いだ天ふにすけ先生のTシャツも持っていて、このバックプリントがめちゃくちゃ可愛い。

そして、アクリルスタンドも持っている。見てほしい。男女ですからね、これ。女の子だけではなく、男の子も描かれているのである。

僕は他の成人向け漫画家のグッズも持っている。えいとまん先生の『おかげで彼女ができました!』のアクリルスタンドは、女の子だけのものだ。それに対して、いだ天ふにすけ先生のアクリルスタンドには、男がいる。

『えいとまん先生のおかげで彼女ができました!』の紹介・試し読み・購入先 ↗
ここ! この特異性を知ってほしい。成人向け漫画のグッズで、男の子も描かれている。作品の中で男がちゃんと魅力的に描かれているから、その男も欲しくなるのである。漫画の構造の違いが、グッズにまで出ているのだ。
最初の一冊には『優しくしたら好きになってくれる?笑』を。
▶ 動画のこの話へ 05:19僕個人としては3冊ともおすすめなのだが、最初に読むなら、特に『優しくしたら好きになってくれる?笑』を薦めたい。女性向けの作品をまとめた一冊で、二つの話をじっくり読める本だ。
表題作では、幼稚園の頃に別れた幼馴染のナツと、大人になってから再会する。昔は意地悪で嫌いだった相手が、背も高くなり、気配りのできる男性になっている。大人になった彼に惹かれていくのだが、その彼には裏の顔がある。
昔の印象と、再会してから見える姿。その違いに心が動いたところへ、また別の顔が現れる。先ほど書いた、優しそうな男から目が離せなくなる感覚を、長い話の中で味わえるのがいい。
もう一つ収録されているのが、『催眠!! 元カノ無知無知大作戦』。タイトルから分かる、この頭の悪さ。アホエロコメディなのだ。表題作とは違う方向に振り切れた話まで、一冊で読めてしまう。
単行本は全256ページ。表題作134ページと、もう一作111ページが収録されている。男の魅力と、その男に惹かれる人の気持ちを、短いあらすじだけで終わらせずに読めるボリュームがある。
女の子を見せるために男がいるのではなく、まず魅力的な男がいて、その男に沼る女の子を描く。この作家の特異性は、そこにある。僕が「いだ天ふにすけの男、メロすぎる」と言い続けている理由を、ぜひ漫画で確かめてほしい。
作品の詳細・試し読み・購入先へ ↗




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