20位でも、
めちゃくちゃ面白い。2026年上半期の新作漫画 ベスト20
今年の上半期に第1巻が出た漫画を約50作品読んで、20冊を選んだ。ところが、順位をつけようとすると困る。広く薦めたいファンタジーより、人間の嫌な感情を煮詰めた漫画を上に置きたくなるし、疲れた日に何も考えず笑えるラブコメも手放せない。面白さに順位をつけていたはずが、僕の好みが丸見えになってしまった。そんなベスト20である。
『遠い日の陽 横谷加奈子短編集』表紙引用:横谷加奈子/講談社
『魔力枯れのダークエルフ』表紙引用:板橋大祐/講談社
『ふたりバス』表紙引用:豊林サカネ/小学館
『まどいのいきもの ─銀河生物観察記─』表紙引用:永田礼路/小学館
『999号室』表紙引用:南賀なん/小学館
『首をまつる』表紙引用:雨瀬シオリ/日本文芸社
書影はこの記事で紹介する作品から。作者・出版社は各作品の紹介欄に記載しています。
1巻が1〜6月に発売選出
読んだ約50作品から基準
僕に、どれだけ刺さったか
対象は、2026年1月1日から6月30日までに第1巻が発売された作品。短編集も含めて、選出時点で読んでいた約50作品から選んでいる。買ったまま読めていなかった18作品は入れていない。まだ出会えていない傑作があるだろうし、ここに入らなかった本が面白くなかった、という事でもない。まず20位からして、ぜひ薦めたい一冊なのだ。
漫画としてのうまさに感心しても、描かれている人生を自分には重ねきれない事がある。一方で、万人には薦めづらいと思いながら、どうしても上位に置きたくなる作品もある。だから今回は、あらすじと一緒に、僕がどこに惹かれ、どこで少し距離を感じたのかも書いていく。今の僕が読んでつけた順位として、楽しんでもらえたら嬉しい。
感想・刊行状況・今後への期待は、2026年7月の選出時点のものです。アニメ化などへの言及は僕の予想です。
選出時に未読だった18作品について
購入済みでも、まだ読めていなかったため、このランキングには含めていません。
- WITCHRIV
- ネオンフィッシュ
- もじるひと
- 白鳥運子は31画
- さよなら僕のメイド様
- 猩猩姫
- ゾンビのバカヤロー!!!〜醤油を借りにいくだけで死ぬことがある世界の中級サバイバルガイド〜
- 不死王の息子
- クールぶり男子と激重男子
- デリカテッセ
- 夕闇とかたわれ
- ピとポとまちながら
- スノードロップ〜あなたの死をのぞみます〜
- 終末パートナー
- さそり座の心臓
- エイリアンヘッドバット
- 今際の際のファムファタール
- UNDER DOCTOR
BOOK INDEX20作品を、書影で見渡す。順位一覧を開く +
書影を押すと、その作品の感想へ移動します。
Kの支配者 ―奥田枠短編集―BL・短編集表紙引用:奥田枠/新潮社19位
遠い日の陽 横谷加奈子短編集不思議・短編集表紙引用:横谷加奈子/講談社18位
ノカゼのピンクなトリセツ仕事・コメディ表紙引用:野良犬ロマン/講談社17位
マリッジランドリー結婚・恋愛表紙引用:タカハシノブユキ/KADOKAWA16位
魔力枯れのダークエルフファンタジー・第二の人生表紙引用:板橋大祐/講談社15位
シランド動物・ダークファンタジー表紙引用:墨佳遼/講談社14位
その青春人生・群像劇表紙引用:信楽大賀/講談社13位
ふたりバス田舎・ラブコメ表紙引用:豊林サカネ/小学館12位
まなざし珠子の自由研究ジュブナイルホラー表紙引用:乃木坂太郎/小学館11位
まどいのいきもの ─銀河生物観察記─生物・SF表紙引用:永田礼路/小学館10位
さむわんへるつ深夜ラジオ・ラブコメ表紙引用:ヤマノエイ/集英社09位
お前がヤったんだろ!下ネタ・ラブコメ表紙引用:クシザキ/講談社08位
臓腑の花束異形・ホラー表紙引用:ISHIDA UMI/KADOKAWA07位
ストーンフラワー京都・SF表紙引用:鈴木りつ/KADOKAWA06位
正しいナイフの使い方小説・ミステリー表紙引用:幌山あき/KADOKAWA05位
999号室異世界・圧倒的な作画表紙引用:南賀なん/小学館04位
時間跳躍式完全無劣化転送装置SF・短編集表紙引用:山素/小学館クリエイティブ03位
アビスマル吸血鬼・ダークファンタジー表紙引用:こかむも/KADOKAWA02位
虐幸のくるちゃん家族・心理表紙引用:木陰ひな田/講談社01位
首をまつる人間の業・短編集表紙引用:雨瀬シオリ/日本文芸社Kの支配者 ―奥田枠短編集―
支配の形が、愛より先に残る
支配したい、支配されたい。その欲望を、際どいSM描写とともに描くBL短編集である。作者は『午前2時まで君のもの』の奥田枠先生。性的な刺激がかなり強い一冊なのだが、僕がまず感心したのは、刺激の見せ方以上に、話の続きを読ませるうまさだった。
「ここからどうなるんだろう」「今のはどういう事なんだろう」。読んでいると、そうやって次の展開を確かめたくなる。性描写に目を引かれたところから、物語そのものへの興味が途切れない。過激な場面がある事と、話として引っ張る力がある事は別だと思うのだが、この短編集には、その両方がある。
僕はそれなりにBLを読むけれど、男性同士の性的なやり取りが好きで読んでいる、というわけではない。この本が強く打ち出しているものと、僕が読みたいものには、少し距離がある。それでも話に引っ張られて、20冊の中に入れたくなった。趣向が合う人なら、僕よりずっと深くハマると思う。
順位一覧に戻る ↑遠い日の陽 横谷加奈子短編集
知らない誰かの過去が、今日を揺らす
フリマアプリで売られている、見知らぬ男の幼少期の写真。なぜそんなものを出品しているのか気になった主人公が、買ってしまう。表題作は、その奇妙な買い物から男との交流が始まっていく話だ。売るほうも不思議だけれど、買うほうも買うほうである。
誰もが知っているフリマアプリなのに、人と関わる入口が妙なところに開いている。ほかの収録作にも、内容だけ説明すると相当にぶっ飛んでいる話があるのだが、横谷加奈子先生の描く世界は、奇抜な設定に驚いて終わりにはならない。日常から少し外れたところへ進んだ先に、どこか懐かしく、寂しくもある感触が残る。

僕は、その読後感が好きだった。知らない誰かのおかしな話を読んでいるのに、妙にしんみりしてしまう。表紙もすごくいい。表紙に惹かれた人には、ぜひそのまま中の短編も読んでみてほしい。不思議な出来事と、それを読み終えた時の静かな気分の両方を味わえる一冊だ。
順位一覧に戻る ↑ノカゼのピンクなトリセツ
性に強い女は、だいたい話が早い
大学に通いながら、デリヘルで働くノカゼ。彼女の周りには、厄介な客や店のスタッフ、大学の友達など、クセの強い人々が集まってくる。ノカゼはそんな相手に振り回されきる事なく、性に対してどこか達観した態度と、遠慮のない言葉で向き合っていく。風俗の仕事を通じて、彼女の性格も、周囲の人間のおかしさも見えてくるコメディだ。
題材から性的な興奮を期待するかもしれないが、僕にはむしろ、ノカゼが人をどうさばくかを楽しむ漫画だった。性を必要以上に神聖視せず、かといって嫌悪もしない。その距離感があるから、相手の変なところを、変に取り繕わず指摘できる。風俗で働く設定も、刺激を強めるためというより、いろいろな人間を受け入れられる彼女の懐の広さにつながっているように感じた。

自分なら飲み込んでしまう言葉を、スパッと言ってくれる。「こういうやつ、いるよね」と頷きながら、こんなふうに言えたら気持ちいいだろうな、とも思える。この共感と憧れが重なるところに、ノカゼの魅力があるのだと思う。女性が好きな「おもしれー女」という感じが、すごくある。性風俗が題材だから男性向け、と片づけるには惜しい。むしろ女性にも読まれてほしい作品なのだ。
もっとも、僕自身は「ちょっと女性に都合が良くないか?」と感じるところもあった。それでも、どんな読者がノカゼを好きになるかは想像できるし、今っぽい絵柄も、そのキャラクターに合っている。これはかなり売れるだろうと思った。人を相手にする仕事だからこそ、毎回違う会話が生まれる。その掛け合いを実写でも見てみたいし、深夜ドラマになった姿もしっくりくる。
順位一覧に戻る ↑マリッジランドリー
選ばされる前に、自分で選びたい
30代になるまで、誰とも付き合った事がない日出。三姉妹の次女で、ほかの姉妹も、母親も祖母も離婚を経験している。結婚して苦労する身近な女性を見てきた彼女には、結婚への憧れがあまりない。私まで同じように失敗してたまるか、という気持ちもある。
そんな日出が、コインランドリーで天使に出会う。告げられるのは、これから3人の男性に求婚され、その誰かと付き合う事になる、という話だ。ブサイクな男、借金まみれのイケメン、年上の男。恋愛から距離を置いていた日出の前に、急に具体的な選択肢が並べられる。

誰を選ぶか考えるには、自分が何を求めているのかも考えなければならない。結婚で失敗したくないとして、そもそも自分にとっての成功は何なのか。家族の経験を見て作ってきた結婚観と、自分のこれからの生き方が、一緒に問われていく。恋愛や結婚を次のライフステージとして考え始めた人には、かなり身近に感じられる題材だと思う。
僕も28歳なので、他人事ではない。ただ、恋愛経験が多いほうではなく、頷ける部分がある一方で、まだ実感の追いつかない部分もあった。経験を重ねた人が読めば、「分かる」も「そこは違う」も、もっと出てきそうなのだ。自分と日出の距離を測りながら読めるところに、この漫画の面白さがある。
順位一覧に戻る ↑魔力枯れのダークエルフ
最前線を降りて、心だけ前に進む
かつて「万能の魔術師」と呼ばれたダークエルフのアミラが、突然、魔力を一切使えなくなる。この世界は、生活の道具も社会の設備も、魔力がある事を前提に作られている。アミラが失うのは、戦うための強さだけではない。昨日まで当たり前だった暮らしまで、不自由になってしまう。
それでも、ダークエルフである彼女には長い人生が残されている。かつてできた事に縛られたまま過ごすのか。それとも、新しくできる事を見つけていくのか。アミラは魔力を失ってからも、いろいろな事をして生を謳歌していく。ファンタジーアクションを楽しみながら、第二の人生についても考えてしまう作品なのだ。
仕事や子育てで自由な時間が減ったり、体が昔のようには動かなくなったりする。その中で、趣味や生きがいを新しく見つける。アミラの境遇に、自分の生活の変化を重ねる読者は多いと思う。しかも、そうした題材の良さだけで読ませる漫画ではない。魔法を描く見開きには迫力があり、絵そのものを眺める楽しさもある。これだけ揃っていたら、そりゃ支持されるだろう。僕はアニメ化にもかなり期待している。

それでも僕の順位は16位だった。インフルエンサーという特殊な仕事をしている事もあるのか、今の僕には、過去の自分を振り返って第二の人生を始める、という感覚がまだあまりない。作品の良さは分かる。でも、自分の人生をそこまで重ねられてはいないのだ。40代、50代になって暮らしが変わったら、違うものが見える気がする。今の僕との距離も含めた順位になった。
順位一覧に戻る ↑シランド
大陸の掟を捨て、甲板の絆を選ぶ。
犬族が大陸を支配し、猫族は海賊として海で生きる世界。両者が対立する中、犬族の少年・ジャンは猫の育て親に育てられてきた。姿は犬でも、身につけた考え方は猫に近い。生まれた種族と、育った環境の間に立つ少年が主人公である。

育て親が殺され、ジャンは猫族の海賊に引き取られる。犬族にも猫族にも関わりを持つ彼が、この世界でどう動くのか。種族同士の対立を、両方の側に立てる少年から見ていく。その主人公の置き方に、物語が広がっていく期待を感じた。
ただし、犬と猫が出てくるからといって、可愛い動物を安心して眺められる漫画ではない。描写はかなりダークファンタジー寄りで、残酷でもある。「犬ちゃん猫ちゃん大好き!」で入っていくと、そのぶん痛い目を見るかもしれない。
一方、毛並みや体の描き方を見ていると、動物を描く事へのこだわりが伝わってくる。種族の設定だけを借りて人間の物語をさせている、という感じでは済まない作画なのだ。動物の姿を描く魅力と、容赦のない世界の両方がある。可愛さだけを期待するとつらい世界なのに、動物の姿を見ていたくなる。その両方があるところが好きだった。
順位一覧に戻る ↑その青春
あの教室が、人生を離さない
楽信小学校の5年生、30人の子供たち。彼らをそれぞれ主人公にして、学校生活から、その後どう生き、死んでいくかまでを描く群像劇だ。クラスの集合写真では隣に並んでいても、たどる人生まで同じになるわけではない。あの教室にいた一人ひとりに目を向けると、人間の嫌なところまで見えてくる。

魔法少女アニメが好きで、自分も女の子になりたいイイダジン。何でも人のせいにしてしまうサワムロゲンキ。とりわけサワムロゲンキの話には、人間の嫌なところが詰まっている。彼のエピソードは1巻と2巻にまたがるので、ぜひそこまで読んでほしい。嫌な人間だな、と思いながら、その人生を追わされる事になる。
僕は、この露悪性が大好きだ。人間の吐き溜めみたいな、クソみたいな感情を煮詰めてくれる。集合写真の時点で、美人やイケメンは徹底して美形に描かれ、ブサイクな人物も容赦なくそう描かれる。しかもサワムロゲンキは、外見に反して心は美しい、といった都合のいい救済をされる人物でもない。人間性まで嫌なのだ。その極端さを薄めずに描いているところが、僕にはたまらない。
もとは作者がXで描いていた作品で、それをコミックDAYSでセルフリメイクしたものだ。読んで気分よくなれる話を求めている時には、選びづらいかもしれない。でも、人間のこういうところまで漫画で読みたい、という僕の好みには、強く応えてくれた。
順位一覧に戻る ↑ふたりバス
バスの中だけ、関係が少し近い
人口約3,000人の田舎町。小学校まで一緒だった春平とあんちゃんは、あんちゃんが私立中学に進んだ事で、少し疎遠になっている。ただ、ふたりの家は同じ山の中にあり、通学に使うバスも同じだ。学校が別になったふたりを、バスの中の会話がもう一度近づけていく。
同じ学校に通わなくなったのに、バスでは顔を合わせる。そこで軽い会話を重ねるうちに、ふたりだけの交流の時間ができていく。小学校の同級生という馴染みのある関係から、少しずつ相手の見え方が変わっていく。その初々しさが、本当にいい。

僕が好きなのは、相手を異性として意識し始めた頃の、まだ名前をつけきれない気持ちが描かれているところだ。小学生の時には何とも思っていなかったのに、何だか気になる。欲望が先に立つ感じでもなく、相手への意識だけが少し変わっている。その微妙な時期の甘酸っぱさを、バスの中のやり取りで読ませてくれる。
『からかい上手の高木さん』のように、ふたりの何気ないやり取りを楽しむラブコメが好きな人にも薦めたい。僕は、アニメ化や漫画賞でも注目される作品になると思っている。大きな仕掛けを説明しなくても、ふたりを見ているだけで読み続けたくなる。その魅力がもうあるのだ。
順位一覧に戻る ↑まなざし珠子の自由研究
先生の遺した謎が、生き返りより重い
夏休み明けの教室で、子供たちが自由研究を発表する。研究したのは、落雷事故で亡くなった先生を生き返らせる方法。そんな、とんでもない発表から幕を開けるジュブナイルホラーだ。『夏目アラタの結婚』の乃木坂太郎先生が描くのは、子供たちが研究のために過ごした、ひと夏の出来事である。

そこから時系列が戻り、夏休みに何があったのかが描かれていく。亡くなった先生は、生き返りの研究をしていたらしい。それを自分たちの自由研究にしようと、珠子たちは先生がかつて住んでいた田舎へ向かう。子供たちの研究が、怖い出来事へとつながっていくのだ。
この始め方に、僕は驚いた。先生を生き返らせる研究、と聞けば、その成否も気になる。しかし主人公たちは、すでに教室に戻ってきて、研究を発表している。少なくとも彼らが生きて帰ってきた事は、最初に分かっているのである。
それでも怖いし、先が気になる。何を見て、何を経験して、今この発表をしているのか。無事だった事が分かるから安心、とはならず、むしろ発表に至る過程を確かめたくなる。自由研究という形式そのものを、物語の続きを読ませる仕掛けにしているところが面白かった。
順位一覧に戻る ↑まどいのいきもの ─銀河生物観察記─
観察していたはずが、価値観まで変えられる
遠い星の爆発の影響で、新種の生物が次々と現れるようになった地球。見た事もない生き物の生態を、一話完結で描いていくのだが、観察されるのは生き物だけではない。彼らと関わった事で暮らしや考え方が変わる、人間たちの物語でもある。
第1話に登場するのは、人間の肝臓に寄生するヒトデ。肝臓を少しずつ食べて成長する一方、寄生された人の知能が上がるという作用がある。そこで、自分を仕事のできる優秀な人間だと思っていた男が、自分の能力はヒトデのおかげだったのか、と気づいてしまう。寄生生物の発見が、そのまま自信の喪失につながるのだ。

能力が下がったら仕事はどうなる。ヒトデ抜きの自分には、どれほどの価値がある。彼は寄生させたままにしておこうとするが、酒を飲んだ途端に倒れてしまう。体を守るために取り除きたいはずのものが、自分の能力を支えているかもしれない。架空の生態を一つ置くだけで、人間の悩みがここまで具体的になる。そのつながりがうまい。
ほかにも、骨の間に寄生するカニなど、妙な生き物が出てくる。僕にとっては、笑う面白さよりも「なるほど、そうなるのか」と考える面白さが強い漫画だった。短時間で強い刺激が欲しい時には、伝わりにくい魅力かもしれない。ゆる言語学ラジオのように、知った事から考えが広がっていく過程を楽しめる人に、ぜひ読んでほしい。
順位一覧に戻る ↑さむわんへるつ
夜の投稿、朝より正直。
深夜ラジオにネタメールを送っても、なかなか採用されないミメイくん。同じクラスの海月ちゃんは、実は「うなぎポテト」という名前で投稿している常連のハガキ職人だった。なかなか届かなかった常連の投稿者が、実はこんなに近くにいた。彼女に勝とうと投稿を重ねるミメイくんと、海月ちゃんのやり取りが可愛らしいラブコメだ。

勝ちたい相手が目の前にいるのに、漫画全体の空気はゆるい。競い合うふたりを見ている僕のほうは、勝敗を急ぐより、このやり取りが続いてほしいと思っている。週刊少年ジャンプの連載なのだが、サンデーに載っていそうな感じもする。その可愛らしい空気が好きだった。
ネタにはマニアックなところもある。それも含めて、「この漫画の面白さを分かっているのは俺だけだ」と、読者がみんな思っていそうなのだ。自分だけが見つけた楽しみのように感じられる、あの感じ。そんな作品を、同じように好きな人がほかにも読んでいると思うと、ちょっとおかしい。
競争の激しいジャンプで、この空気のまま続いてくれるだろうか。選んだ時には、そんな不安もあった。でも同時に、いずれアニメでふたりを見られるような作品だとも思っている。まずは漫画で、このゆるいやり取りに付き合ってみてほしい。
順位一覧に戻る ↑お前がヤったんだろ!
スケベの解釈が、みんな健気でズレてる
ハナムラに好意を寄せる、アヤメ、モモカ、ナデシコの3人。彼の好みに合わせようと張り合うのだが、そのやり取りが、とにかくアホらしい。下ネタの飛び交う学園ラブコメなのに、僕は性的な刺激よりも、ヒロインたちのズレた頑張り方を見て笑ってしまう。
しかも、3人はちゃんと性格が違う。同じ相手に好かれたいのに、それぞれ別の方向に話を転がしていくので、やり取りを追うだけで楽しい。頭を空っぽにして読める漫画にも、こういうキャラクターの描き分けは必要なのだと思う。みんな同じだったら出てこないおかしさがあるから、騒がしい掛け合いが続いても楽しめるのだ。
人生の名著だとか、全員に読んでほしい傑作だとか、そういう薦め方が合う本ばかりではない。疲れている日にも開けて、笑って読める漫画が欲しい時もある。僕は、その役割をかなり大切に思っている。日々のストレスを抱えたままでも楽しめる、このちょうどいいアホさ加減。その評価を順位にすると、9位になった。
順位一覧に戻る ↑臓腑の花束
惹かれるほど、近づいちゃいけない
夏休み、従兄弟の住む島を訪れた中学生の琉之介は、家の2階の謎の部屋で、人間ではない生き物に出会う。仲良くなった彼は、その生き物を「セキ」と名づけ、自分の住む東京へ連れ帰ってしまう。得体の知れない相手との親しげな交流が、ホラーの入口になっている。

1巻を読んだ段階では、セキが何なのかも、この世界がどうなっているのかも、ほとんど分からない。物語が大きく動き切る前の段階なのだが、僕はもう引き込まれていた。分からない事が多いのに、続きを待つのが苦にならない。むしろ、その分からなさが気になって仕方がないのである。
絵のうまさも大きい。正体の知れない相手と、人間が仲良くなっていく。その交流を見ていると、設定の説明を待つ前に、このふたりがどうなっていくのか知りたくなる。『光が死んだ夏』など、人ではないものと人間の関わりを描く作品が好きなら、気になる漫画だと思う。
この先どうなるのか、分からない事ばかりだ。それでも1巻を読み終えた時には、設定の答えだけでなく、琉之介とセキの行く末を知りたくなっていた。説明を出し惜しみされている気分になるのではなく、まだ分からない世界に期待して待っていられる。今の段階で、もうそれだけの魅力を感じている。
順位一覧に戻る ↑ストーンフラワー
封印された京都で、そして「京都」は崩壊す
車椅子の少女・るてんと、そのメイドであるカナ。ふたりは何者かに追われているが、カナはどうやら不老不死らしい。なぜ追われ、なぜ一緒にいるのか。事情が分からないまま時間は1年前に戻り、ふたりの出会いから、彼女たちを取り巻く世界が少しずつ見えてくる。
読み進めると、舞台の京都が黒い霧に覆われ、外の世界から隔絶されている事が分かってくる。霧の内と外では時間の流れが違い、外では400年が過ぎている。京都にはスマートフォンのある現代のような暮らしが残る一方、外では爬虫類型の人類が文明を発展させているのだ。

僕たちのような人間は「哺乳類型人類」と呼ばれ、希少な存在になっている。見慣れた現代のほうが、世界の中では取り残されたものになっているのである。しかも、京都の内と外を自由に行き来する事はできない。この設定が見えてきた時、一気に先を知りたくなった。
少女ふたりの出会いを追っていたはずが、その出会いを包む世界まで、とんでもなく大きな話になってくる。不老不死らしいメイドと、時間の流れが違う京都。この先、それらがどう関わってくるのか、どこに着地するのかが読めない。設定を知るほど期待が増していくSFだった。
順位一覧に戻る ↑正しいナイフの使い方
書いた嘘に、本物が会いに来る。
ある少年の殺人事件をモデルにした小説でデビューした作家のもとに、その事件の犯人を名乗る男が訪ねてくる。求めているのは、小説の書き方を教わる事。小説にしてきた事件の当事者が、今度は自分の生活に入り込んでくる。創作を通じて関わり始めたふたりの間に、事件の謎と不穏さが漂うミステリーだ。

なぜ彼は人を殺したのか。その事件で何が起きたのか。謎を抱えた男と小説家の関係が、書く事を通じて深まっていく。僕の感覚では、ブロマンス寄りの作品である。事件の真相だけでなく、ふたりの関係がどう変わるかも気になる。
小説家は、デビュー作こそ衝動に任せて書いたが、その後は惰性になっていた。そこへ、自分の創作のもとになった男がやってくる。事件の当事者に出会った衝撃に加え、小説を書く事を教える行為も、彼に新しい刺激を与えていく。その一方で、不穏さは消えない。創作が動き出す喜びと、近づいている相手への不安が、一緒にあるのだ。
この関係の描写が良かった。実写ドラマになった姿も想像できるし、ふたりの間の空気を映像でも見てみたいと思う。選出時には1巻までしか読めず、続きを待つ時間が長く感じられた。事件と創作がどう絡み合っていくのか、追いかけたい一冊である。
順位一覧に戻る ↑999号室
国家の朝に、異形だけが目を覚ます
超巨大な集合住宅で、「逓信所飛脚行代員1871号」という役割を与えられた主人公が、住民たちへ手紙を届けていく。ただし、そこに住んでいるのは、人間とは似ても似つかない異形の怪物たちだ。彼らへの配達が、この場所ではごく普通の仕事として続いている。
なぜそんな姿なのか、この住宅は何なのか、そもそもどんな世界なのか。疑問は山ほどあるのに、説明を待たずに配達は進む。知らない世界の一日を、そのまま覗き込んでいるような漫画なのだ。あらすじだけで面白さを伝えようとすると、僕も困ってしまう。
ところが、ページを開くと引き込まれる。絵と構図の力で、この訳の分からない世界を見続けたくなるのだ。異形の住民と建築が画面を埋めていて、描き込みにも圧倒される。ただ細かく描けば済む話ではなく、何をどこに置き、どう一つの画面として見せるかまで強い。設定を理解する前に、絵に連れていかれてしまう。

僕は、これを読んで嫉妬するクリエイターがたくさんいるだろうと思った。映像にしてみたいと思う人もいるはずだ。南賀なん先生は、次の世代を担う漫画家のひとりになるんじゃないか。そう期待したくなるくらい、絵で世界を成立させる力がある。この5位は、ぜひ実際のページを見て確かめてほしい。
順位一覧に戻る ↑時間跳躍式完全無劣化転送装置
時間を跳んでも、気持ちは置いていけない
タイムマシンや、宇宙人にさらわれる話。SFではお馴染みの題材を使いながら、思いもよらない展開を見せてくれる短編集だ。山素先生は、こちらが題材から想像する話の、その先を描いてくる。

その状態で読むと、「その発想があったか」とやられる。使われている題材は知っているのに、話が向かう先を知らない。何度も扱われてきたものから、まだこんな展開を作れるのか。その驚きが、短編を読む楽しさとして詰まっていた。
続きを長く追いたくなる連載の魅力とはまた違う、一冊の短編集としての満足感がある。どこでどう驚いたのかを書きたいのだが、そこを説明すると、読む楽しみを先に渡してしまう。もどかしい。見慣れたSFの題材で、もう一度気持ちよく予想を裏切られたい人に薦めたい。
順位一覧に戻る ↑アビスマル
名前のない私、黒い都で目覚める。
吸血鬼が支配する架空の都市で、少女・まろまが目を覚ます。記憶を失っており、自分が何者かも分からない。名前さえ壁の文字から知る。異様な街を案内してくれるはずの主人公も、僕たちと同じように、この場所の事を知らないのだ。

そのまろまが出会うのが、都市で争う吸血鬼の姉妹の末っ子、シオンである。ふたりは一緒に行動する事になるのだが、姉妹たちはそれぞれ宗教や科学の組織に関わり、この街で覇権を争っている。僕はこの漫画を、ざっくり「可愛いドロヘドロ」と言いたくなった。可愛らしい造形と、異様な街の組み合わせがいい。
世界の説明は、断片的に出てくる。「魔獣の数式」が鍵らしいが、それもまだ分からない。まろま自身、自分を人間だと思っているのに、体には継ぎはぎや角がある。人間らしい記憶はある。でも、姿はそう見えない。街の謎を追う事と、自分が何者なのかを知る事が、同時に気になってくる。
しかも、本筋から脱線しても面白い。謎の答えが知りたいからといって、寄り道を邪魔に感じるわけではなく、その場で起きている事を楽しめてしまう。この世界に興味を持たされているのだと思う。早く先へ進んでほしい気持ちと、もっとこの街を見ていたい気持ちが、両方ある。
そして、絵の躍動感がすごい。キャラクターの可愛らしさを残したまま、動きには勢いがある。謎や設定を説明する言葉を追うだけでなく、画面を見ている事そのものが楽しい。『青騎士』の連載で、まだ出会っていない人もいると思うので、ぜひ手に取ってみてほしい。可愛い絵だな、で見過ごすには、あまりに気になるものが詰まった街なのだ。

虐幸のくるちゃん
幸せなはずが、ずっと息苦しい
裕福な家で、両親と弟と4人で暮らす中学生のくるちゃん。習い事もさせてもらい、周囲には、優しい母親のいる幸せな家庭に見えている。何より、くるちゃん自身が自分を不幸だと思っていない。毒親を描く漫画なのだが、その出発点が怖いのだ。
実際には、母親は嫌な事があるたびに不機嫌になり、くるちゃんがその機嫌をうかがい続けている。それで、どうにか家庭が成り立っている。幼い頃から「私より幸せになるな」と言われてきた彼女は、いつしか、母親を幸せにする事が自分の目的なのだと思い込むようになる。
結婚するなら、お母さんを幸せにしてくれる人。それが自分の幸せでもある。くるちゃんの中では、そうつながっているのだ。母親に縛られて苦しい、と本人がはっきり分かっているわけではない。自分で望んでいるつもりの幸せの中にまで、母親が入り込んでいる。そこが怖い。

周囲から母親との関係を指摘されるにつれて、くるちゃんが当たり前だと思ってきた価値観が崩れていく。自分の家庭がおかしいのだと知る事は、それまで信じてきた幸せまで疑う事になる。家庭不和や虐待を、当人がどう受け止めてしまうのかまで真正面から描いている作品だ。
僕は露悪的な漫画が好きなのだが、この作品を高く評価したのは、題材の重さだけではない。くるちゃんの認識が揺らぐ過程を、読み味のよさとテンポで追わせてくれる。痛ましい話を読んでいるのに、先を確かめずにはいられない。漫画としてのうまさにも引き込まれて、2位にした。
順位一覧に戻る ↑首をまつる
首だけが、死を語りきれない
戦国時代の日本、パリ、現代のメキシコ。国も時代も違う5つの短編をつないでいるのは、生首という題材だ。人が死ぬ事だけでなく、残された首に何を見いだすのかを通じて、生きている側の欲望があらわになっていく。
例えば、合戦の後、死者のあまりの美しさに、首を切って家に飾る話がある。ほかには、メキシコの市長をめぐる話もある。同じ首でも、それをめぐる事情や感情は違う。残酷な題材をどれだけ強く見せるかというより、そこまでしてしまう人間の業に目が向く短編集だった。

僕が惹かれたのは、そこだった。死を描く事で、生きている人間の業が見えてくる。倫理から外れた行為を読まされるからこそ、自分が何を許せないと思い、何に惹かれてしまうのかも意識する。いやらしさ、汚さ、欲望。人間の暗いところを描いた時に、同時に別の面まで見えてくる。その描き方が、僕は大好きなのだ。
万人に薦められるかと言われると、ためらう。けれど、こういう尖った作品が世に出て、ちゃんと評価される世界であってほしい。その気持ちは強くある。ここまで、広く支持されそうな漫画も、気軽に笑える漫画も選んできたが、いちばん上に置きたくなったのは、人間の暗いところをここまで描く一冊だった。僕はやっぱり、こういう漫画が好きなのだ。
雨瀬シオリ先生がamase名義で描くBL漫画『蛍火艶夜』も、僕は本当に好きである。だから、作者をひいき目に見ている部分は若干あると思う。それでも、この短編集自体が本当に面白かった。死を描く事で、生きている人間の姿を見せられる。その読後感が残って、僕の上半期1位になった。
順位一覧に戻る ↑20位の外にも、面白い漫画はある。
20位の外にも、面白い漫画はあった。『還暦姫』も、今回はぎりぎり入れられなかったけれど、面白かった一冊だ。顔面土砂崩れ脳内アーカイブには、僕が読んで面白いと思った作品を、推薦文と一緒に載せている。この記事で気になる作品があったら、書影の下にあるリンクから、作品の特徴や試し読み・購入先を見てみてほしい。サイト経由の購入が、また新しい漫画を読む支えになるので、使ってもらえたら嬉しいです。
惜しくもランキング外還暦姫奥浩哉/小学館作品の詳細・試し読み・購入先 ↗顔面土砂崩れ脳内アーカイブへ ↗
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