panpanyaって、どんな漫画家?
▶ 動画のこの話へ 01:37まず、panpanyaとは作品のタイトルではなく、漫画家の名前である。『足摺り水族館』『蟹に誘われて』『枕魚』『動物たち』『グヤバノ・ホリデー』などの作品集を発表している作家だ。名前を聞いたことはなくても、書店でこの独特な表紙を見かけたことのある人はいるかもしれない。
どんな漫画を描いているのかというと、僕たちが普段見ている日常の風景が、気がついたら非日常に変わっているような漫画だ。学校に行ったら机が全部こたつになっていたり、芋掘りをしていたら、芋づるが遥か遠くまで続いていたりする。そんな不思議な出来事を描いた短い話が、一冊の本にいくつも収録されている。
もともと同人誌として制作していた漫画を再編集し、2013年には『足摺り水族館』が一般流通の単行本となった。その後に出た『蟹に誘われて』には、白泉社の「楽園」本誌やweb増刊で発表した作品などが収録されている。
ここで「最初の本から順番に読まないと分からないのでは?」と思う人もいるかもしれないが、基本的には短編集なので、気になった一冊から読んでいただいて大丈夫だと思う。不思議な世界を描く話もあれば、実際の旅行をもとにしたエッセイのような話もある。今回は、その中でも僕が特に好きな作品と、この作家のどこに惹かれているのかを話していきたい。
書誌情報の出典:作者による『足摺り水族館』刊行時の説明 / 白泉社『蟹に誘われて』書誌情報
どういうアンテナを張って生きてるんだろう?
▶ 動画のこの話へ 04:23panpanyaの漫画は、背景がめちゃくちゃ細かく描き込まれている。その中に、鉛筆でラフに描いたような人物が立っている。この絵の組み合わせが、まず独特なのだ。風景は妙に現実味があるのに、そこで起こる出来事は、夢の中でしか見ないようなものだったりする。
例えば、学校に行くと机が全部こたつになっている話。そんな事が起きたら普通は大騒ぎになると思うのだが、主人公は「まじかよ」という反応で、それを受け入れてしまう。机がこたつに変わった事を受け入れた上で、物語が進んでいくのである。
他にも、壊れたブロック塀を直す話がファンタジーになっていたり、セブンイレブンやファミリーマートのおにぎりのラベルの違いを掘り下げていたりする。缶詰や、何気なく見ている鳩まで、漫画の題材になってしまう。
「どういうアンテナを張って生きてたら、こういう漫画が描けるんだろう?」
僕は読むたびにそう思う。日常の中で誰も注目しないような一コマを、ここまで掘り下げる事ができる。きっと何か気になるものを見つけたら、調べずにはいられない人なのだろうと、勝手に想像している。
僕とは違う感性で生きている人なのだと思う。同じような景色を見ていたとしても、この人には僕が見落としているものが見えているのかもしれない。そういうところも含めて、僕はpanpanyaの漫画がめちゃくちゃ好きなのだ。
好きなんだけど、本当に読むのは疲れる。
▶ 動画のこの話へ 05:28ここまで好きだ好きだと書いてきたが、一つだけ正直に言っておきたい事がある。
「本当に、読むのが疲れる。」
昔から好きで読んでいるのだが、これはずっと思っている。大ゴマでボーン!!と派手なアクションが起きて、それを追いかけているうちに一冊読み終わっている、というような漫画ではない。物語自体も独特なので、僕の場合、小説を読むくらいの集中力が必要になるのだ。
ショート動画のようなテンポの良さや、アクション漫画の勢いを求めている人には、あまりおすすめできないかもしれない。僕自身が普段ショート動画を作っている人間なので、そういう楽しさとは違うところにある漫画だと感じている。
では何故、疲れるのに読んでいるのか? この漫画でしか得られないような時間があるからだ。読み終わると、少し賢くなったような気もするし、有意義な時間を過ごしたような気もする。あくまでも気がするだけなのだが、それでもまた読んでしまう。
「なんか眠くなってきたな…」と思いながら読んでいたら、予想もしていなかったオチで普通に笑ってしまう事もある。派手さがないと思っていたら、急にとんでもないものを見せられる。油断できない漫画なのだ。
「俺だけが面白いと思ってるんだよな、この漫画家は」
きっと読者のみんなが、そんな事を思っているのではないだろうか。僕もその一人である。
僕が特に好きなのは『グヤバノ・ホリデー』
▶ 動画のこの話へ 07:22
ここまで読んで少し気になった人に、一冊おすすめするとしたら、僕は『グヤバノ・ホリデー』を選ぶ。エッセイをもとにした話が入っている作品集で、僕が特に好きな一冊だ。
その中には、作者が上野駅でグヤバノという果物のジュースを飲むところから始まる話がある。「グヤバノって何だ? グアバでもないのか?」そんなよく分からない果物のジュースなのだが、飲んでみると美味しい。上野駅に来た時には、そのジュースを買って飲むようになる。

しかし、ある日店に行くと、グヤバノジュースがなくなっていた。飲めないのである。そこで今度は、グヤバノの果実そのものを食べたいと思うようになるのだ。
その話を編集の人にしたところ、「グヤバノを食べにフィリピン旅行に行きましょう」という話になってしまう。ジュースを飲んでいただけなのに、作者と編集さんがフィリピンへ行く事になるのである。
僕はこの話がすごく好きだ。気になったものを、気になったままで終わらせない。果物を食べたいという興味を、そこまで追いかけていくところに、この作家らしさを感じる。
panpanyaの漫画には、裏路地に入ったらよく分からない世界に巻き込まれるような話も多いのだが、この話は現実の体験を描いている。そのため、初めて読む人にも比較的入りやすいのではないかと思っている。
作品ページで試し読み・購入先を見る ↗芋づるを追いかけた先に、見たことのない世界がある。
▶ 動画のこの話へ 08:36そして、この本には「芋蔓ワンダーランド」という短編も収録されている。僕はこの話がめちゃくちゃ好きなのだ。
芋掘りをしていたら、芋づるがずっと続いている。「隣の家の塀の下までつながってるぞ?」と、どこまで続いているのかを確かめるために、つるをたどっていく。

すると、地下鉄の中にまで入っていってしまう。芋掘りをしていただけなのに。
芋づるを追いかける中で、「地下ってこうなっているんだ」「この固いものは何だろう? あ、地中に埋まっている電柱なのか」と、普段は見る事のできない世界に触れていく。土の中の生き物など、知識欲を満たされるようなところもある。
僕たちは地上を普通に歩いているが、その下がどうなっているかを、普段そこまで意識していない。そんな見慣れた日常の裏側に、芋づるを追いかけるという行為で入り込んでしまうのだ。
何気ない出来事が、ファンタジーの世界につながっている。僕がpanpanyaの漫画に感じている面白さを、とてもよく体験できる短編だと思うので、ぜひ読んでみてほしい。
作品ページで試し読み・購入先を見る ↗『つくもごみ』の、予想できなかったオチ
▶ 動画のこの話へ 09:45
今回の動画を作るにあたって『つくもごみ』も読んだのだが、これも面白かった。その中で特に好きだったのが、「われら日本歩道橋株式会社」という短編だ。
タイトルの通り、歩道橋を中心に物語が進んでいく。僕は「いつものpanpanyaの漫画だな…」と思いながら読んでいたのだが、オチが全く予想していなかったものだった。

「うわ!!そういうオチなんだ!!」
普通に笑ってしまった。先ほど、眠くなりながら読んでいたら急に笑ってしまう事があると書いたが、まさにあの感覚である。ここでオチを書いてしまうと読む楽しみがなくなってしまうので、ぜひ実際に読んで確かめていただきたい。
電子でも持ってるけど、紙でも欲しくなる。
▶ 動画のこの話へ 10:28
panpanyaを語る上で、もう一つ外せないのが装丁である。装丁とは、表紙などを含めた本のデザインの事だ。動画では僕が持っている『模型の町』『動物たち』『枕魚』を見せながら紹介しているのだが、紙の本として手元に置いておきたくなるようなつくりになっている。
僕が初めて買ったpanpanyaの漫画は『枕魚』だった。学生の頃、「どこかで見た、どこにもない風景」という帯の文言に惹かれ、購入した一冊だ。
この本はカバーを外すと、表面に凹凸の加工がされている。『動物たち』は紙がザラザラしていたり、『模型の町』にもタイルのような加工があったりと、本そのものにも遊びがあるのだ。
僕は電子書籍でも持っているのだが、紙でも欲しくなってしまう。漫画を読むという目的だけなら電子でもいいはずなのに、本として所有しておきたいと思ってしまう作家なのである。
とはいえ、最初から全部そろえる必要はない。短編集なので一冊ずつ読めるし、何冊も続けて一気読みしなければいけないものでもない。表紙が気になったというだけの理由でもいいので、一冊手に取ってみてほしい。
僕が最初に『枕魚』を買った時も、帯の言葉に惹かれた事がきっかけだった。それから学生時代を過ぎても、こうして紹介するくらい好きな作家になっている。皆さんにとっても、そんな一冊になれば嬉しい。




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